感染症対策の鍵となるワクチン。日本でもコロナワクチンの接種が行われましたが、使用されたのはいずれも海外で開発されたワクチンでした。
これまでアメリカ、イギリス、中国、ロシアなど次々と新型コロナワクチンが実用化されました。
一方、日本ではワクチン開発が大きく遅れ、事実上の「ワクチン敗戦」ではないかという声もある。
本記事では、国産ワクチン開発の将来を担う研究の最前線について紹介します。
国産ワクチン開発状況と今後の展望
日本 コロナワクチン開発に取り組んだのは6社
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001134503.pdf
国内でコロナワクチン開発を行っているのは6社でした。
- 製薬大手「塩野義製薬」
- 製薬大手「第一三共」
- バイオベンチャー企業「アンジェス」
- 製薬企業「KMバイオロジクス」
- 「VLPセラピューティクス」
- 「Meiji Seika ファルマ」
アメリカなど米欧では本格的なコロナの流行からわずか1年でワクチンの実用化に成功し、
日本では海外企業が開発したものを輸入して接種してきました。
初の国産コロナワクチンは、2023年8月2日に承認された第一三共の「ダイチロナ」でした。
(「ダイチロナ」は米ファイザーとモデルナと同じメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン)
https://www.daiichisankyo.co.jp/about_us/mission-strength/what_we_do/vaccine/
国産ワクチンが完成したことは喜ばしいことですが、欧米の製薬会社より数年遅れてしまったのはなぜなのでしょうか。
日本のワクチン開発も決して遅くはなかった
ワクチン開発は10数年かかるもの
基礎研究から始まり、非臨床試験、第1相〜第3相臨床試験、様々な審査を経て、ようやく承認後に生産体制を整備するため、普通のワクチン開発は10年以上かかるといわれる。新型コロナワクチン開発では、同課程をわずか1年でやり遂げた企業が海外にいくつかある。通常は順々に同過程を辿っていくが、コロナワクチン開発では同時並行で進めていたため、ありえないとも思える早さでワクチンが完成した。このために人材、お金、物資はどれだけ必要だったのでしょうか?
(海外では数兆円規模のお金が投じられていたようです)
https://www.todaishimbun.org/covid_19_vaccine_20210414/
米国や欧州では平時からバイオテロなど有事に備えた研究をしているが、ワクチンは外交や国防の要であるという意識の希薄さが日本にはあると指摘されている。
mRNAワクチンは30年前から開発されてきた技術であった
コロナで新しいタイプのワクチンとして話題になった「mRNAワクチン」について調べてみると、1990年頃には既にワクチン開発が始まっていたようです。
(mRNAを筋肉に入れるとタンパク質が作られ免疫ができると分かったのが1990年でした)
【mRNAワクチンの仕組み】
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/about/vaccination.html
ワクチンはその種類によって開発速度に大きな違いがあります。DNAワクチンとmRNAワクチンはとても速く、生ワクチンや不活化ワクチンはニワトリの卵や哺乳類の培養細胞が必要なので開発に時間がかかります。
免疫誘導能力は、mRNAワクチンは強く、DNAワクチンは弱く、不活化ワクチンは更に弱い。
一方で、生ワクチンは免疫誘導能力が強いが、副作用が強くなりがちです。
※不活性化ワクチンは、その効果(免疫原性)を高めるために使用される物質「アジュバント」が必要になる
https://www.todaishimbun.org/covid_19_vaccine_20210414/
安全性に関しては、mRNAワクチンはよく分かっていませんでした。しかし、既に世界中で数億人以上に接種されているので、安全であると考えられていますが、数年後にどんな副反応が起こるのかは誰にも分らないようです。何も起こらないことを祈るばかりです。
モックアップワクチンは未知の感染症対策に有効
モックアップワクチンは、主に試験前に安全性や効果を確認するために使われ、またワクチンの製造や輸送の試験、緊急時の対応演習にも活用されます。そのため、未知の感染病原体の出現やバイオテロの対策になっています。例えば、実際の抗原によく似た抗原を用いてモックアップワクチンを作っておき、ヒトに接種できるようにし、未知の感染症が流行し始めたら、その抗原を用いてワクチンを製造すると短期間で何千何万人分ものワクチンを作ることが可能です。
日本でも2015年頃からワクチン研究の第一人者である石井健教授が厚生労働省と第一三共のサポートを受け、MERSに対するmRNAワクチンの開発を始めていました。その結果、ジカ熱ウイルスやインフルエンザウイルスに対するmRNAワクチンの開発に成功しました。しかし、その後は国からの予算が削減され、タイミング悪くその直後に新型コロナウイルスが流行しました。つまり、日本が危機意識を持って感染症対策に取り組んでいたら、コロナの流行は予防できていたのかもしれません。
国産ワクチンの開発拠点 東大など5大学 5年で最大77億円支援
日本政府は20年4月の令和2年度第1次補正予算でワクチン開発支援として約100億円を投入し、令和2年度第2次補正予算ではワクチンの早期実用化のための体制整備費として1455億円、開発費として500億円を追加で支援しました。しかし、同予算額は諸外国と比べて少ないのでないでしょうか。
米国は「ワープ・スピード作戦」を掲げ約100億ドルをかけた。欧州やWHOを中心とする世界的なワクチン開発・供給の枠組「COVAX」では 、各国や民間団体から約63億ドルの資金提供を受けた。米生物医学先端研究開発局(BARDA)はモデルナ社に4億8300万ドルを、アストラゼネカ社に10億ドルを支援した。
また、文部科学省と日本医療研究開発機構(AMED)は、新型コロナウイルスなどの感染症の国産ワクチンや治療薬の開発を進める国内の研究拠点として、東京大学、北海道、千葉、大阪、長崎の5大学に対して令和4年度から5年間で1拠点あたり最大77億円を支援するとしている。
https://www.amed.go.jp/koubo/21/02/2102B_00002.html
まとめ
野口英世、北里柴三郎、志賀潔など歴史的に日本の研究者は様々な感染症研究に取り組んできた。基礎研究力があり優秀な人材もいる中で、臨床試験の環境や実用化への応用力が不足していたのかもしれない。現在では国産ワクチンを開発しようと国もようやく動き出したのかもしれない。国産ブランドの安心感があるワクチンが今後作られるようになることを期待して、日本の研究者を応援したいと思う。
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